茶室で用いられる様式のひとつ“躙口(にじりぐち)”は、客人が庭を通って茶室へ入る
ときに使用する小さな出入り口の事。出入口で意識が圧縮される分、室内に入ると広く
感じるといった効果も考えられての事ですが、僕がもっと好きなのはその設計思想。
狭いにじり口を通る際、人は身をかがめ頭を下げるような姿勢で入室する事になります。
そして中で待つ亭主と一人間同士で向き合うといった、ある意味茶道の精神性から成る
人間の行動を建築に昇華したのがにじり口であると。そう解釈しています。
『通り土間の家』でも伝統的な茶室への憧憬として、にじり口を意識した個所があります。
ただしここを通るのは人ではなく、お施主さんの大切な家族、二頭の犬たちです。
居間からつながる長い土間の一部は、この犬たちのためのドッグスペース。
区切ることも開け放すこともできる、実用性を兼ねた土間空間です。