図面上で家の間取りを見て、それが出来上がったとき体感的にはどれぐらいの広さなのか
イメージする感覚は、設計をしている者としてそれなりには持っているつもりです。
スケール感というやつですね。
広い狭いの話だけでなく、大きい/小さい、厚い/薄い、設計の作業ではそうした様々な
“サイズ”の中からベストだと思われるバランスを選択していく必要があります。
今回は『碧南の家』で、面積が畳1枚分サイズのパントリー(食品庫)を作りました。
1畳のパントリーは今まで何回も設計していて、広さ的には経験から十分実用可能だと
分かっていましたが、それらの入り口はすべて1畳の長手側。
対して今回は短手側に入り口があるため、奥に長い形状のパントリーとなります。
それが収納庫として使い勝手的にどうなのかという部分を少々懸念していたのですが・・・
そして出来上がった1畳のパントリー。全然いらぬ心配でした!
1畳というと、多くのトイレと似たような広さです。自宅のトイレで
「こっちから入る」「この辺の高さに棚が付く」「しゃがむとひざが当たるか・・・?」
などと、一人で怪しい行動を繰り返して棚の奥行きや取付け高さを検討した甲斐があり
しっかりと“使えるパントリー”になっていて安心しました。
パントリー入口になる開口上部のアール形状は、奥さんたっての希望。
僕はアールと直線が角度を成して取り合うのが絶対に嫌だったので、監督さんにも念押し。
曲線と直線がなだらかに繋がるこの形状は、狭い半径で下地のベニヤを曲げる必要があり
施工が難しいかなとも思いましたが、大工さん、きれいに仕上げてくれました。
これでパテ処理をして一度クロスを貼り、さらにその上から塗装をかけて仕上げます。
図面に書くのは簡単でも、それが実用に耐えるか、施工できるかというのは経験則。
これでまた自信を持って提案できる引き出しが少し増えました。
蒸し暑く、ときおり遠雷も聞こえる今日8月2日(大安)、『一文字の家』は上棟を迎えました。
お施主さんにとって、ずっと紙の上で想像することしかできなかった我が家が
ついに立体となって現実に現れる特別な日です。
Nさんおめでとうございます!
また平日にもかかわらずご予定を合わせて頂き、ありがとうございました。
即席の祭壇に用意された米と塩を家の四隅にまき、工事の無事を祈ります。
完全な2層分の吹抜け。この部分は南に面して全面大きな窓が付けられます。
ところで、これまで Works に掲載した物件の中には、2層分の吹抜けがある家は
一軒も無かったんですね。
吹抜けは事務所スタッフ時代から数多く設計してきたイメージが強いので
今更ながらその事に気が付き、自分でも意外でした。
ようやく部屋の広さなどが体感できるようになった建物内を嬉しそうに見て回る
お施主さんの姿を見ていると、こちらも自分の事のように嬉しくなってしまいます。
訊かれても無いのに細かい設計意図を語り出しちゃったりなんかして・・・(笑)
今日は外部のパネル張りまでは行わず、ひとまず作業はここまで。
これから日一日と変化して行く現場が楽しみです^^
「窓をスリガラスにすると、室内が暗く感じますか?」
これは打合せ中、よく受ける質問のひとつです。
あくまで僕の主観ですが、答えは「NO」です。
理由はあとで述べますが、むしろ透明より明るいのではと感じるケースもあるぐらいです。
外からの視線は遮りながら窓を設けたい場合、スリガラスも十分効果を発揮しますが
より外から見えにくく、オススメなのが “透明ガラス+乳白色フィルム” の組み合わせ。
洗面室の東面にある窓を上記の組み合わせで施工した例(『碧南の家』)
これはFIX窓で明かり採り専門。通風は別の場所からとっています。
天井まで届く大きな窓で、たくさんの光が入る明るい洗面室。
窓枠と、十字型に入る桟はタモ材で造作して温かみをプラス。
実際に現場で見てみて、自画自賛ですがこの窓はすごく良かったと思います。
天空光を受け、乳白色のガラス面全体が白く発光しているような状態になっています。
これこそが、人間の目が“より明るい”と錯覚する要因では?
同じワット数でも、クリア電球より乳白色電球の方が明るく感じるのと同じ理屈です。
点光源だったものが面光源に。
“窓”という面全体がフィルムを通して均一な光を拡散することで、やわらかな光で
満たされた落ち着きのある室内環境を作り出せます。
洗面室など、ともすれば明るさや快適性をはなから捨てて考えてしまいがちな場所でも
気持ちの良い空間にすることを望むのであれば、それは諦めるべきではありません。
水まわりの窓は小さくしなければいけない法など無いのですから。
Nさん、これは家の東面に陽が当たっていない時間帯の写真ですが、
朝日を浴びながらの身支度はもっと気持ちがいいでしょうね^^
壁に開けられた小さな開口部。
屋外側から見た『碧南の家』の郵便受け下地です。
これは屋内側から見たところ。
届いた郵便物が室内側から取り出せるよう、このように外壁を貫通させています。
設置する場所は玄関近くが多いですが、玄関内に郵便受けのボックスが見えていては
あまりスマートではないので、取り出し口は造作の下足入れ内に仕込んでいます。
玄関は訪れた人を迎え入れるために設えられた、家の顔にもなる空間なのに
入っていきなり“郵便受けドーン”では雰囲気も何も無いですからね。
その玄関は北側からのやわらかい光を取り込む地窓がついたシンプルなつくり。
室の隅部分には、奥さんが以前から気になっているペンダントライトが付く予定です。
そろそろこの家の工事も中盤。残り半分、がんばって行きましょう!
基礎立ち上がり部分のコンクリート打設が終わった『一文字の家』。
木製型枠の年季の入り具合が、いよいよダンジョンの様相を呈して来ています。
基礎から飛び出した短いボルトは、基礎と土台を固定するためのアンカーボルト。
1本極端に長いのが、基礎と柱とをつなぐホールダウン金物用アンカーです。
現場に立ち寄った際、裏に建っているお宅のご主人とちょうどお会いしました。
建築現場ではどう気を付けたって、ある程度の作業音は出てしまうもの。
仕方がない事とは言え、やはり申し訳ない気持ちが当然あります。
そのことを伝えると
“ここのお父さんとは昔からの付き合いで、全然大丈夫ですから気にせずやってください。
それにこんなのはお互い様ですからね” との、温かい言葉をかけて下さいました。
“お互い様”
工事をしてる側から言っちゃダメですが、言われると本当にホッとする言葉ですね。
もちろんそれに甘える事なく、近隣の方々への配慮は引き続き行っていく訳ですが
この言葉はお施主さんご家族が長年築いてこられた近隣の方々との良好な関係性や、
その人柄を物語っているようで嬉しくなりました。
6月末に着工した『一文字の家』では基礎工事が進んでいます。
ベタ基礎の配筋。これは通称“シングルベタ基礎”といいます。
平らな部分の碁盤の目状の鉄筋を、更にもう一層入れるとダブル配筋のベタ基礎ですね。
鉄筋が2層に入る分、確かにシングル配筋に比べ高強度である事に間違いはないのですが
地耐力が特別低い場合など、ダブル配筋が本当に必要になるケースは割と稀です。
大は小を兼ねるとは言うものの、やはりそれには相応のコストがかかるのも事実。
過剰設計にならないよう、地耐力を勘案して適切な配筋計画としたいものです。
コンクリート製のスペーサー。現場ではサイコロ石とかピンコロなんて呼ばれています。
下に敷かれた防湿シート裏面にはさっそく水滴がついていますね。
こうして地中から上がって来る湿気が中に入るのを、コンクリートの手前で防いでいます。
これもスペーサーですが、こちらは樹脂製。
鉄筋から型枠まで、つまり基礎の仕上がり面までの距離を一定に保つ役割です。
最後は鉄筋を切ったり曲げたりするための機械、カットベンダーです。
電動式もありますがこれは手動式。かたい鉄筋が面白いように曲がります。
今回紹介した基礎の配筋は、コンクリートを打設すれば当然見えなくなってしまう部分。
着工直前に少し図面を手直しした事もあり、その部分の確認も兼ねて見に行って来ました。
現場で測ってみたら、しっかり新しい図面の指示通りにつくられていましたよ。
12、3年ぶりにコンベックススケールを新調しました。
大学卒業後、最初の会社で現場監督をしていた頃に購入したものをずっと使っていましたが
ようやくプロ仕様に格上げです。以前のは完全に一般家庭用でしたからね・・・
たくさんある中から写真のこれを選んだのは、とにかくテープが頑丈だったこと。
本体を水平に持ってテープをどんどん伸ばして行くと、テープが途中でペキッと折れて
垂れ下がってしまう経験をしたことは無いでしょうか?
その点このコンベックスのテープ剛性は“当社比1.5倍”とのことで、水平に2メートル以上
伸ばしてもまだ余裕がありそうです。
もう一つはやはり見た目と持った感触ですね。
ちょうどいいおにぎりぐらいのサイズ感で持ちやすく、金メッキなどの過度な装飾が
施されていないのも好印象です。
そしてこの色合いや質感、佇まいから一眼レフのフルサイズ機に通ずるものを確かに
感じ取るあたり、カメラ欲しい病は相当重症なもよう。
出典:デジカメプラス
『碧南の家』には造作の天窓が付いた半屋外のウッドデッキスペースがあります。
設計において、内と外をどう繋げるかというのはいつも考えているテーマです。
と言うのも、一般的な木造住宅では1階の床面から外の地面までは60センチ近い段差があり
これに対して何の対策も取らない事が庭に出る機会を減少させているように思うからです。
“外に出る決意”とまで言うと大げさですが、「今から屋外へ出る」という能動的な意思を
持ったときに初めて、人が庭へ出るというのは僕が理想としている建築とは少々違います。
思わず外に出たくなるような仕掛け・・・というのもまた、言葉として少々違う気がします。
もっと自然に、外に出た感覚すら認識させないほどのイメージで屋内と屋外を繋ぎたい。
滅茶苦茶な事を言っているようですが、それで成り立っている建築が端的には理想です。
今回はそれに近づくためのひとつの手段として、半屋外空間を使っています。
完全に屋根のかかった半屋外のウッドデッキスペース。
庭以外の3方を壁(窓)で囲い、見上げると造作の大きな天窓があります。(ガラス取付け前)
内とも外とも付かない領域を挟むことで、「外に出る」という意識は随分と薄れるはず。
もちろん手法としてはこれがすべてではありませんが、有効な手段のひとつです。
碧南の家はLDKの目の前にとても広い庭があるため、その庭と室内をうまく繋ぐ役割を
この空間が果たしてくれる事を期待しています。